中国版画の素材分析調査

以前もご紹介しました通り、海の見える杜美術館では、東京芸術大学の研究チームのみなさんと、長い時間をかけて、作品に使われている紙や絵の具の調査分析をしています。

今回は、

20160929 中国版画の素材分析調査 (3)複合エックス線装置 XRDF
①蛍光エックス線分析装置    XRF

20160929 中国版画の素材分析調査 (2)複合エックス線装置 XRDF
②複合エックス線装置      XRDF

20160929 中国版画の素材分析調査 (5)
③フーリエ変換式赤外分光分析機 FTIR

という、やたら難しい名前の、とても精密な分析機器を美術館に持ち込んで調査をしました。全部合わせると立派な家が建つくらい、高価な機械だそうです。

これで何を調べるかというと、

①のXRFは、とても弱いエックス線を当てて、反射してくるエネルギーを測り、どのような元素が作品にあるのか大まかに判断します。1つのポイントを計測するのに1分ぐらいかかります。

②のXRDFは、エックス線を当てる角度を何十回も変えて照射して、その反射してくるエネルギーを測るので、1つのポイントを計測するのに約30分もかかります。これで元素と原子の並びが分かるそうです。

③のFTIRは、赤外線を物質にあてて、反射パターンの特徴を読み取って物質を特定します。

これまで、紙の繊維や絵の具の粒子の拡大撮影、赤外線撮影、紫外線撮影もしています。これから、科学の目でみたデーターを全部合わせて分析します。気の遠くなるような作業ですが、紙や絵の具などについて、わからなかったことが分かるようになり(それでもわからない材料もあります!)、作品の制作地、制作年代、制作技法など謎の解明につながるかもしれません。

結果が出たら、またご案内します。

20160929 中国版画の素材分析調査 (4)
写真右から、木島隆康先生、桐野文良先生、塚田全彦先生、大久保早希子先生、ここには写っていませんが半田昌規先生。丸3日間、部屋にこもりっきりで調査にあたりました。

おつかれ様でした。そしてこれからよろしくお願いします。

うみひこ

「三井寺」絵巻との再びの出会い  小林健二

 

先日、久し振りに海の見える杜美術館に所蔵される「三井寺」絵巻を手にとって見る機会を得た。秋の名曲である能「三井寺」の物語を幅17、5センチ、長さ6メートルに描いた愛らしい小絵巻で、私が芸能の絵画化を研究するきっかけとなった作品である。

作られたのは室町末期であろうか。この時は豊臣秀吉が愛好したことによって、諸大名が能を稽古し自ら演じた、ちょっとした能ブームの時代であった。その隆盛を背景としてこの絵巻も作られたのであろう。

今回、ゆっくり拝見して、能のストーリーに忠実ながら、三井寺の月見の情景を膨らませたり、舞台では見られない主人公の悲しみや喜びが描かれていて、あらためて素晴らしい絵巻であることを確認した。この出会いの後で、同じような能を絵巻にしたものを探し求めたが、その例はきわめて少ない。

海の見える杜美術館にはこれも能の名曲「松風」を描いた「松風村雨」絵巻もある。これは絵本を絵巻に改装したものであるが、やはり貴重な作例で、こちらもじっくり見ることができた。至福の時間とはまさにこのことである。

現在、美術館は改装中であるが、リニューアルしたら絵巻・絵本の展示も予定されていると聞く。その時にはまた来よう。もちろんこれらの絵巻・絵本との再会を期して……

三井寺絵巻 UMAM三井寺

松風村雨 UMAM松風村雨


 

小林健二先生(国文学研究資料館 教授)と、ともに絵巻を見る時間は本当に楽しいひと時でした。当館が所蔵する「三井寺」絵巻や、「松風村雨」絵巻が、能を描いた作品としてどのように重要であるかも、丁寧に教えていただきました。先生の研究が発表になりましたら、改めて紹介したいと思います。

さち

海の上から訪ねる世界遺産・厳島神社、原爆ドーム

台風の到来が予想された日、世界遺産・厳島神社と原爆ドームを、船に乗って訪れました。

廿日市 大野桟橋

宮島の鳥居の前で海上から厳島神社参拝

宮島3号桟橋にて下船

宮島3号桟橋から乗船

瀬戸内海と太田川を遊覧

原爆ドームすぐ横の もとやす桟橋にて下船

原爆ドーム、折り鶴タワーへ

雨や台風の予報を裏切り、屋形船のような小さな船もまったく揺れず、快適快適。さすが瀬戸内海! 宮島についたころには雨も上り、原爆ドームへ向かう海面は鏡のように光っていました。

20160910 海の上から世界遺産・厳島神社、原爆ドームを訪れました 0

それぞれの船にはスタッフによる小粋な観光案内もついていて、厳島神社の鳥居の前では、真下まで船が接近して、海上からの参拝時間もちゃんととってくれます。こちらの映像をご覧ください。すごいでしょ。この小旅行の船は特別にチャーターしなくても、定期航路なのでご興味のある方はぜひ以下のホームページを確認してみてください。

宮島行大鳥居遊覧航路
ひろしま世界遺産航路

なお、大野桟橋は広島東洋カープ屋内総合練習場・大野寮に隣接しています。この日は優勝へ向けてマジック4。船を待つあいだ、選手たちの気合に満ちた声があたりに大きく響きわたっていました。

20160910 海の上から世界遺産・厳島神社、原爆ドームを訪れました

もりひこ

 

古文書は 文字を読むのが大変です

時代の流れとともに変遷する、文字の形や言葉の持つ意味。そして筆者の特徴ある書体が、文書の読解をムツカシクさせます。

特にこの書状は、私にとって難解の作品でした。展覧会『日本の書芸美 名筆へのいざない』(海の見える杜美術館 2012年)開催時に、財津永次先生(当館顧問 当時)に助けていただいて判読した、思い出の作品です。

20160910  文字を読むのが大変でした 書状 「出度已来」 武野紹鴎 UMAM
武野紹鴎(1502 – 1555)
書状 「出度已来」
16世紀【室町時代】
13.8 × 39.7

LETTER   “SHUTTAKU-IRAI…”
TAKENO Jouou
16th century,  Muromachi Period

茶道は、茶祖珠光の創めた侘び茶を紹鴎が引き継ぎ、その門下の利休が大成しました。
この書状は「菊某」に宛て、普請中の茶友に建築の進捗工合などを気遣う内容で、利休の書状にも通じる書風が見られます。

–  (無)□儀候へ共御
–  座敷きのま々
–  令□申候以上
出度已来無音申候
依御手前御作事
出来候哉無御心元候
御用之儀候者可承候
然者□銀も未出来
□れ御口切十四日に候
其元御法事にて
御上奉待候猶以
面上可申入候恐惶
謹言

菊□□   紹鴎(花押)

文化遺産オンラインにて、作品を公開しています。
そのほかの書跡もどうぞお楽しみください。

さち

青木隆幸