「厳島に遊ぶ」展 会期最後の週末です!

2019年もあと数日ですね。そして「厳島に遊ぶ」展もあと2日を残すのみとなりました。

 

展覧会の第2章では、印刷物に描かれた厳島を紹介しています。江戸時代は庶民が旅を楽しめるようになった時代。旅行ブームの中で全国各地の名所を紹介する名所記や図会が刊行されます。これらはいわば現代のガイドブックです。

厳島に特化した名所図会の決定版と言えるのが、『芸州厳島図会』(5巻全10冊)。15年もの年月をかけて天保13(1842)年に完成しました。豊富かつ多様な挿絵が魅力で、往時の厳島の様子を現代の我々に生き生きと伝えてくれます。

大鳥居の図

岡田清編、山野峻峯斎画 『芸州厳島図会』より、大鳥居の図

内容も多岐にわたり、嚴島神社をはじめとする名所の紹介にとどまらず、島に暮らす人々の様子や、四季折々の行事、嚴島神社に伝来する宝物などについて詳細な図とともに記されています。

さて、ここではこの『厳島図会』のひとつの図と、歌川広重の浮世絵の関わりをご紹介します。

歌川広重 《六十余州名所図会 芸州 厳島祭礼之図》

上にあげた作品は、歌川広重の六十余州名所図会のうち、「安芸 厳島祭礼之図」。嚴島神社の重要な祭礼のひとつ、管絃祭のクライマックス—夜半に船が地御前より還幸し、まさに大鳥居にさしかかろうとする華やかな場面—を描いたものです。厳島の管絃祭はよく知られていたようで、全国の地誌などに挿絵つきで取り上げられています。

さて、広重は旅をよくした浮世絵師として知られます。ですのでこの一枚も広重が実際に宮島に来て管絃祭を見物した風景を描いたものと思いたいのですが、残念ながら必ずしもそうではなさそうです。この広重の一枚と、『芸州厳島図会』の一図を比べてみると・・・。広重の管絃祭の船の姿は、『厳島図会』のそれをほぼコピーしたものであることがわかります。展覧会会場ではこのふたつを並べて展示してあります。ぜひ比べてみてください。

管絃祭の船が還幸する様子

管絃祭の船が還幸する様子

それにしてもさすがは広重。『厳島図会』のオリジナルの船と大鳥居を大胆にトリミングして、夜の空と海を背景に際立たせた構図が見事です。

 

前回のブログでご紹介したような屏風の大画面の迫力と、今回ご紹介した、小さいけれどたくさんの情報と当時の人々の厳島への想いが詰まった版本たち。いずれも魅力的です。どうぞお見逃しなく!

 

谷川ゆき

華やいでいます

こんにちは! 朝は車のフロントガラスが凍った時のために準備したペットボトルのお湯が、ちょうど湯たんぽになり、大事に抱えながら出勤する今日この頃です。 気持ちまでじーんと温かくなります。

さて、現在「厳島に遊ぶ-描かれた魅惑の聖地-」展を開催しております。 今展覧会より、単眼鏡の貸し出しを始めました!

大きな画面の細部を観察する楽しみを知って頂きたく、受付にて貸し出しをおこなっております。

単眼鏡

IMG_0693 IMG_0691受付から覗いてみるとこんな感じです。かなり遠くまではっきりと見えるので、作品を観るとなると夢中になります。ぜひご自分の目でお好きな場所を心ゆくまで鑑賞してみてください。

当時観光地として人気だった厳島。その華やかさが作品を通して伝わってきます。 そして、華やいでいるのは作品だけではございません。

クリスマスということで、うみもりミュージアムショップも華やいでいます!IMG_0625 IMG_0576 IMG_0463 IMG_0573 IMG_0665

クリスマス仕様のショップもぜひお楽しみください。

A.N

「厳島に遊ぶ」展(〜12月29日)のみどころ 名所風俗図屏風

あっという間に会期を残すところ1週間ほどとなってしまいました。

今回の展覧会の見所は、なんといっても大画面に厳島を描いた屏風です。全部で9点。そのうち江戸時代に描かれた厳島の名所風俗図屏風6点が展覧会最初の見所になっています。

古くから信仰を集めた厳島ですが、意外なことに国宝の《一遍聖絵》など一部の例をのぞき、厳島や嚴島神社を描いた中世に遡る作例はそう多くありません。盛んに描かれるようになったのは江戸時代初期のこと。しかし、ひとたび描かれるようになると、厳島は名所風俗図屏風として人気の画題となります。

名所風俗図屏風とは、京都以外の、吉野や天橋立、和歌浦などの地方名所を組合せ、有名な寺社などを中心とした名所の景観と、そこに遊ぶ人々の様子を描いた絵画のことで、江戸時代初期に流行しました。名所風俗図屏風の中でも厳島を描いた作例は群を抜いて多く、現在では60点以上が知られています。

その中でも最も古い時期に制作されたもののひとつ、と考えられるのが、展覧会の最初に展示してある《吉野厳島図屏風》です。

《吉野厳島図屏風》 6曲1双 のうち、左隻の厳島図 江戸時代・17世紀 海の見える杜美術館

《吉野厳島図屏風》 6曲1双 のうち、左隻の厳島図 江戸時代・17世紀 海の見える杜美術館

この吉野と厳島の組合せからは、厳島が屏風に描かれる様になったきっかけは豊臣秀吉の周辺にあったことが推理できるのですが、そのあたりの詳しい説明はぜひ展示会場の解説パネルで!

大きな画面に、嚴島神社の社殿を中心に描かれた厳島はたいへん迫力があります。金雲と濃彩の絵の具の色があいまって、華やかで非日常的な聖地の様子が表されています。弥山や嚴島神社がどのように描かれているか観察したり、今は失われてしまったお堂の姿を探したり、楽しみ方は色々です。宮島をよくご存知の方は、描かれた場所が現在のどの場所に相当するのか考えるのも楽しいはずです。私がお勧めしたいのは、厳島を往来する人々の楽しそうな様子をひとりひとり観察すること。特に《吉野厳島図屏風》は、近世初期風俗画のある種享楽的な雰囲気を残し、人々の華やかな衣や髪形、喧嘩したり宴に興じたりする活力ある描写に見応えがあります。

《吉野厳島図屏風》部分 嚴島神社の舞台では毛氈をひいて宴会をする寛いだ男達の姿が。社殿の横では海水浴に興じる人々も・・・。

《吉野厳島図屏風》部分 嚴島神社の舞台では毛氈をひいて宴会をする寛いだ男達の姿が。社殿の横では海水浴に興じる人々も・・・。

ぜひ細部までじっくりご覧頂きたい!ということで、受付で単眼鏡の貸出を行っています。ぜひご活用ください。

また、展示室には部分を拡大したパネルをご用意しました。リンク先にあげたのはその一枚。《吉野厳島図屏風》の厳島図のうち、東町の商店の賑わいを描いた部分を拡大しました。床屋や足袋屋、扇屋や反物屋など、店主とお客との活気あふれるやりとりが魅力的に描かれています。

海杜テラスから見る宮島は今日も見事な姿です。展覧会の前後に宮島を訪れて、江戸と現代の違いを探って頂くのも楽しいと思います。

 

谷川ゆき

 

クリスマスの贈り物に

こんにちは。

12月に入り、空気が冷たくなってきたこの頃ですが、遊歩道を散策すれば、身体が温まり気分はスッキリとします。 当館は標高200mにございますので、空気が澄んでいてとても気持ちが良いです。

さて、この時期になりますとクリスマスの贈り物をお探しの方が多いのではないでしょうか?
うみもりのミュージアムショップでは、図録やクリアファイル、ポストカードだけでなく、ガラスのはしおきやグラス等も取り揃えております。

ガラス作家、安田泰三氏が1つ1つ手作りで生み出すガラス作品は、どれも特別感を感じさせてくれます。

中でも今の時期、ご注目いただきたいのは繊細な模様のレースグラスです。IMG_0569《シャンパングラス》
注がれたシャンパンにレースが映え、目にも喜びをくれる作品です。

IMG_0571《(左)ワイングラス、(中央)レース文様コンポート、(右)レース文様皿》

IMG_0574 IMG_0575《ワイングラス》
赤ワインが引き立ちます。

この縦一列分のレースを作るのにも、工程がいくつもあるそうです。とても精巧に作られています。IMG_0587《レース文様皿》
サラダやお菓子、サンドウィッチ等、何を乗せても美しく映えることでしょう。

ガラス作家 安田泰三氏のプロフィール
1972 兵庫県神戸市生まれ
1993 富山ガラス造形研究所 造形科 第1期卒
1994 富山ガラス造形研究所 研究科 第1期卒
1994 富山ガラス工房勤務
1997~ Taizo Glass Studio設立

安田氏は、1995年以降、これまでに数々の展覧会に作品を出品し、多くの賞を受賞されています。
また近年では、海外の展覧会にも出品されています。
当館へお越しの際は、ぜひ実物をご覧ください。お声掛けいただければ、間近でご覧いただくこともできますよ。

そして、今回の展覧会で展示中の作品「厳島図屏風」と竹内栖鳳「スエズ景色」のポストカードもございます。IMG_0554 IMG_0553 IMG_0556 IMG_0580

その他、パーティーや小さなお子さんとのお出かけ時等に活躍する紙コップは、香水瓶がイラストの当館オリジナルとなっています。IMG_0588《5色1セット》

また、枯れないままずっとかわいいボタニカルペンや、この冬何冊も本を読まれる方へしおりも取り揃えております。IMG_0578ちょっとしたプレゼントや、大切な方への贈り物をお選びの際に、ご参考になれば幸いです。

A.N

第13回 香水散歩 パリ16区
国立ギメ東洋美術館

IMG_2663ブログ

こんにちは、特任学芸員のクリザンテームです。

この秋の初めにパリで行われた、いくつかの興味深い展覧会のなかから、今回は世界屈指の東洋美術館として知られるパリの国立ギメ東洋美術館での東海道展を取り上げたいと思います。

ポスター

パリにいながら、わざわざ日本関連の展覧会? と訝られる方もあることでしょう。しかし、明治初期に廃仏毀釈が行われた日本では、明治維新以前の日本の名品が海外に残されていることが少なくありません。例えば、ギメ美術館には奈良・法隆寺の金堂にあった勢至菩薩像が所蔵されていますが、その日本コレクションの基礎となったのも、明治9年に宗教調査のために来日した実業家エミール・ギメが、日本滞在中に購入し、フランスに持ち帰ったものでした。

そのギメ美術館で、今年没後100年を迎えたフランスの医師・作家・中国学者のヴィクトル・セガレンが旧蔵した東海道に関する錦絵の画帳が公開されると聞き、早速足を運びました。なんでもその画帳がこのほどギメ美術館所蔵となったので、そのお披露目展とのことです。

20世紀初頭、セガレンは10年余り中国に滞在し、医療活動とともに、現地に取材した文学作品を執筆しました。したがって、中国に精通した人物として知られていますが、日本文化を愛する側面はほとんど知られていなかったため、日本関連の旧蔵品がいかなるものかと興味が湧きました。

では早速、企画展示室へと向かいましょう。

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こちらは新古典主義様式で建てられた美術館の端正な円形エントランスホール。列柱の間にある企画展の幟(最近はバナーと呼ぶらしいですね!)に展覧会への期待が高まります!

展示室に入ると、目に飛び込んでくるのは、東海道を中心とした大きな地図。IMG_2676

傍らの解説文には、江戸時代において東海道が、幕府のおかれた江戸と天皇のすまいである京都を結ぶ海沿いの街道であったことや、全部で5つある街道のなかでも最も重要な大動脈であったことなどが、わかりやすく紹介されています。皆、ご熱心に読んでいらっしゃいますね。

展示作品は、セガレン旧蔵品のほかに、歌川広重の代表作《東海道五十三次》や↓IMG_2707ブログ

 

江戸後期から明治にかけて活躍した絵師、歌川貞秀の4巻からなる鳥瞰図による東海道五十三次も出品されています↓。

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さてさて、東海道のいわば“スタンダード”をしっかり押さえたところで、ではお目当ての新所蔵品であるセガレン旧蔵の東海道に関する作品を見てまいりましょう。

展示室の大きな壁に沿うように広げられた、全166枚の錦絵による東海道五十三次の情景。目を凝らしてみると、なんとそれは通称《御上洛東海道》として知られる《東海道名所風景》ではないですか! それはつまり幕末の1863年2月、開国の意を天皇に言上するために、十四代将軍徳川家茂が行列を引き連れて上洛する様子を錦絵で描いた作品です。東海道五十三次のほとんどすべての風景の中に、将軍の行列が描き込まれているのはそのためです。

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ちなみに将軍が上洛するのは、三代将軍徳川家光以来229年ぶりのことであり、これは歴史的な出来事であったのです。そこで多数の絵師たちが協力して、その様子をあたかもルポルタージュのように描き出しました。

もちろん、名所絵としての面白味もふんだんにあります。ですから順を追っていくと、各地の様子に、すっかり旅心が刺激されてしまうのです。

なんといっても、将軍一行の行く先々での活気がなんとも魅力的! 歴史を左右する大事な使命を持った旅が中心主題であるにもかかわらず、描かれている人物たち――やんごとなき人々も、また市井の人々も皆――の表情が概しておおらかで楽し気なのです。

『東海道 浪花享保山』《東海道名所風景》1863年、国立ギメ東洋美術館蔵

『東海道 浪花享保山』《東海道名所風景》1863年、国立ギメ東洋美術館蔵

さらに、歌川広重、歌川国定、月岡芳年、河鍋暁斎等、名だたる15名もの絵師が手分けして名所を担当しているので、一枚ごとに対象のとらえ方や表現方法が異なり、その多様性が見る者を飽きさせません。

セガレンも日本の海沿いの旅路を空想しながら、ひとつの物語を編むかのように錦絵を見ていたのかもしれませんね。この画帳を彼がいつどこで入手したのか正確には判明していません。しかしジャポニスムがヨーロッパを席巻した時代の貴重な証左のひとつであるといえるでしょう。

さて、ギメ美術館を訪れたら常設展示室も見逃すわけにはいきません。ガンダーラ美術、シルクロード美術、中国美術、韓国美術、インド美術等、様々な東洋美術を満喫することができます。なかでも今回、クリザンテームが真っ先に向かったのは、日本美術コレクション室です。

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というのも、そこには江戸後期の香道のお道具が展示されていたからです。

作者不詳《源氏香之図》江戸後期(1603-1868)国立ギメ東洋美術館蔵

作者不詳《源氏香之図》江戸後期(1603-1868)国立ギメ東洋美術館蔵

香道には、天然香木の香りを聞いて〔動詞は嗅ぐの代わりに聞くを使います〕鑑賞する聞香と、その香りが何かを当てる遊びの組香がありますが、展示作品《源氏香之図》は組香の種類の一つである源氏香において、香元が焚いた香りを客が答える際に参照する、いわば香りの名称早見表です。源氏香で用いられる香りには、源氏物語を構成する52の巻名〔桐壺と夢浮橋の2巻は除かれています〕が付されているので、香りの名称として巻名を紙にしたためるのです。

心を静めて繊細な香りを感じ取り、その名称を当てる雅な遊び……考えてみれば前回ご紹介したパリ香水大博物館の香り当てっこゲーム椅子も、発想は同じことですね!

覚えていらっしゃいますか? こちらです↓

香水

時代が異なるとはいえ、同じ発想の遊びにおける日本とフランスの文化の違いをひしひしと感じさせますね。

 

この《源氏香之図》がギメ美術館のコレクションに加えられたのは、今から100年以上も前のことです。日本から遠く離れた地で、日本の香りの文化にまなざしを向けていた存在があったかと思うと、ことさら嬉しくなるのは私だけでしょうか。

 

クリザンテーム(岡村嘉子)

 

◇ 今月の香水瓶 ◇

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ゲラン社、香水瓶《トルチュ》1904年、透明クリスタル、海の見える杜美術館蔵

国立ギメ東洋美術館に《源氏香之図》が所蔵された頃にフランスでつくられた香水瓶。《トルチュ》とは、フランス語の亀の意味。亀の形をしていることに気づくと、妙に可愛らしく見えてくるから不思議です!

このなかには、今日もなおファンの多い香水「シャンゼリゼ」がおさめられています。クリザンテームの世代にとってこの香水は、香水のイメージキャラクターをつとめたソフィー・マルソーと結びついています。懐かしい!