うみもり香水瓶コレクション2
ファベルジェ社《香水瓶》 モダン・デザインの逸品

こんにちは。クリザンテームこと、特任学芸員の岡村嘉子です。今回も、ぜひ皆様のお目にかけたい、当館の香水瓶コレクションの選りすぐりの作品を紹介いたします! 今回はこちらの作品です。
ファベルジェ 1895-1900
ファベルジェ社《香水瓶》
ロシア、サンクトペテルブルク、1895-1900年頃、水晶、サファイヤ、金、ギリシャ国王ゲオルギオス1世旧蔵 海の見える杜美術館所蔵。
FABERGE, PERFUME FLACON, C.1895 – 1900, Rock crystal, sapphire, gold, Propriety:King Georges I of the Hellenes, Umi-Mori Art Museum,Hiroshima

本作品も、第1回に登場したファルベルジェ社の作品と同様、2007年までギリシャ王室にて代々引き継がれたゲオルギオス1世旧蔵の香水瓶です。前回の香水瓶とは対照的に、あっさりとした造形の本作品においても、ファベルジェ社らしい卓抜した技術による仕上げに、思わずため息が漏れてしまいます。
掌におさめると、ずっしりと重く硬さもあります。それは、ガラスでもクリスタルでもない、水晶ならではのもの。クリスタルや多様なガラス加工の香水瓶が既に普及していた時代を考えれば、それは特別なことでした。

1917年のロシア革命によりファベルジェ社の記録が一部失われたため、本作品の購入者はいまだ謎に包まれていますが、どなたかがゲオルギオス1世に贈った可能性が先行研究において指摘されています。
水晶に刻まれたなだらかな曲線は、そのまま金の栓にもつながり、頂点のサファイヤに達します。希少な天然物を用いて、色を極力排したシンプルな造形は、ほぼ同時期に興隆したウィーンのモダン・デザインをも連想させます。

時代の先端を行く、極上のシンプル・モダンを体現した香水瓶。一分の隙もない、完璧なフォルムを見ていると、この趣味の持ち主への興味が尽きません。

岡村嘉子

うみもり香水瓶コレクション1
ファベルジェ社《香水瓶》

こんにちは。クリザンテームこと、特任学芸員の岡村嘉子です。今後、うみもりブログで、当館の香水瓶コレクションのなかでも選りすぐりの作品を紹介してまいります! 第1回目の作品は、こちらです 👇ファベルジェ 1890

(ファベルジェ社《香水瓶》ロシア、サンクトペテルブルク、1890年頃、水晶、ダイヤモンド、ルビー、ムーンストーン、金、七宝、ロシア皇太子ゲオルギー・アレクサンドロヴィッチおよびギリシャ国王ゲオルギオス1世旧蔵、海の見える杜美術館所蔵。 PERFUME FLACON, FABERGE, C. 1890 ,Gold, rock crystal, diamonds, rubies, moonstone, enamel, Umi-Mori Art Museum,Hiroshima)

 

写真から、水晶の輝きを際立たせる繊細な文様が伝わりますでしょうか? いかにもやんごとなき所有者を想像させるこの壮麗な香水瓶は、世紀転換期に生きたギリシャ国王、ゲオルギオス1世の旧蔵品です。2007年までギリシャ王家の驚異の部屋に収められ、代々受け継がれた後に、当館に収蔵されました。

ゲオルギオス1世の名は、近代オリンピック揺籃期の文献に多く登場します。近代オリンピックの歴史は、1890年代にフランスのクーベルタン男爵が、古代オリンピックの再興を提唱したことに始まるとされていますが、その栄えある第1回目の地として選ばれたのが、ギリシャのアテネでした。

しかし、わずか2年しかなかった準備期間で、開催資金を調達するのは至難の業でした。それを解決したのが、ときのギリシャ国王、ゲオルギオス1世であったのです。ギリシャ国王となる以前、デンマーク王子であった彼は、王太子コンスタンティノスとともに、各国の王室に呼びかけて、資金提供者を集め、開催を実現させました。

本作品は、そのゲオルギオス1世が、故郷のデンマーク王室を通じ、ロシア皇帝ニコライ2世の弟である皇太子より相続した香水瓶です。ロシアの高級宝飾ブランド、ファベルジェ社の工房長ペルチンが手がけたもので、煌く宝石があしらわれた栓や、アラベスク文様が緻密に彫られた水晶の本体に、その熟練の技術が認められます。18世紀の装飾様式を持つ表現が、家族の歴史を物語るかのような格調高い香水瓶となっています。

ただ今、香水瓶展示室では、本作品を含むオリンピックにちなんだ作品を展示しています。はるかギリシャのエーゲ海を思わせる、穏やかな夏の海を臨む翠緑の杜の美術館で、本作品をぜひご堪能くださいませ。

岡村嘉子(クリザンテーム)