第4回 香水散歩 東京都庭園美術館
「エキゾティック×モダン、 アール・デコと
異境への眼差し」展内覧会 後編

こんにちは、クリザンテームです。

前回同様、東京・白金にある東京都庭園美術館で開催の「エキゾティック×モダン、アール・デコと異境への眼差し」展オープニングレセプションと内覧会の夜が続きます。

さて、ポール・ポワレ着用のガウン《ローブ》の展示場所も、また忘れがたきものでした。美術館のロゴマークにも採用された、アンリ・ラパンのあの名高き《香水塔》の隣に並んでいたのです。

poiret robe 4MP   香水塔

会場風景 ポール・ポワレ《ローブ》の後ろにアンリ・ラパン《香水塔》

 

私は、ちょうど一年ほど前「香水瓶の至宝展」図録の翻訳作業中に出合った、ポワレの次の言葉を思い出しました。

「私のドレスは、あなたの身体のために作るもの。

私の香水は、あなたの魂のために作りたい」

これは、香りが精神に及ぼす効果をよく理解していた、ポワレならではの言葉と言えるでしょう。

展示風景 ブロデールやバルビエのデザイン画やポワレのアフタヌーン・ドレスが、壁の装飾にぴったり合っていますね!

展示風景 ブロデールやバルビエのデザイン画やポワレのアフタヌーン・ドレスが、壁の装飾にぴったり合っていますね!

ところで、当時の異文化へのまなざしを考える上で、1931年にパリで開催された「植民地博覧会」に象徴される、当時の植民地の存在が看過できぬことも、この展覧会は教えてくれます。

展示室をめぐりながら、一アジア人として、また一日本人として、時代と表現をどのようにとらえ、未来に活かすのかを、鋭く突き付けられました。

 

会場風景 フランソワ・ポンポン《シロクマ》1923-33年とジャン・デュナン《森》20世紀前半

会場風景 フランソワ・ポンポン《シロクマ》1923-33年とジャン・デュナン《森》20世紀前半

雨後の清らかな香り先で、見応えのある展覧会に出合い、ふと立ち止まって歴史を考える、いい時節になったことを実感いたしました。

クリザンテーム

「香水瓶の至宝」展時(2018年3月~7月)に公開した、ポール・ポワレ・ロジーヌ社の《香水瓶》1912年頃、透明ガラス、七宝、海の見える杜美術館美術館蔵。 なんと手描きです!

「香水瓶の至宝」展時(2018年3月~7月)に公開した、ポール・ポワレ・ロジーヌ社の《香水瓶》1912年頃、透明ガラス、七宝、海の見える杜美術館美術館蔵。
なんと手描きです!

本記事執筆にあたり、ご協力頂きました東京都庭園美術館の関昭郎氏に心より御礼申し上げます。

写真は、内覧会にて主催者の許可を得て撮影したものです。

「エキゾティック×モダン、アール・デコと異境への眼差し展」

会場:東京都庭園美術館

開催日:2018年10月6日(土)~2019年1月14日(月・祝)

開館時間:11:00-18:00 (夜間開館あり、詳細は下記公式ウェブサイトご参照ください)

休館日:第2・第4水曜および年末年始

2019年1月22日(火)より群馬県館林美術館に巡回

https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/

第2回 香水散歩  パリ・マレ地区
 エディション・ドゥ・パルファン
フレデリック・マル社ブティック

こんにちは、クリザンテームです。前回のコニャック=ジェイ美術館訪問と同様、今回もパリ・マレ地区での散策が続きます。

なぜならこの地区には、香水専門店をはじめとする魅力的なお店がひしめきあっているからです。

なかでも、エディション・ドゥ・パルファン フレデリック・マル社のブティックは、シックな黒い外観でひときわ異彩を放つ存在です。

 

画像1(画像1)ブティック外観

 

フレデリック・マルについては、当館の企画展「香水瓶の至宝 ――祈りとメッセージ」の図録に収録されたマルティーヌ・シャザル氏の論文においても、新世代の香水アーティストとして言及されていますね。

彼が現代の香水界における革命児の一人といわれるゆえんを、私はブティックで改めて思い知らされることになりました。

まず驚くのは陳列された香水瓶がすべて同じデザインであること。しかもラベルには調香師の名前と香水名が併記されているではありませんか!

つまりここでは、調香師は決して影の存在ではないのです。あたかも本の著者名のように明記されているため、調香師名をたよりに香水を選ぶこともできるのです。

これでブランド名に冠せられた「エディション・ドゥ・パルファン」(エディションはフランス語で「出版社」)の意味にも納得させられます。

 

画像2(画像2)ジャン=クロード・エレナ作『冬の水』エディション・ドゥ・パルファン フレデリック・マル社。
エレナは、エルメス社「庭園のフレグランス」シリーズで知られる調香師。ちなみにクリザンテームは
同シリーズ『李氏の庭』がお気に入り。

 

ところでフレデリック・マルが採用したもうひとつの斬新な手法、それは新たな香りを世に出す際にはマーケティングに依存せず、調香師たちが生み出したいと願う香りを製品化することでした。

あらゆる分野においてマーケティングが主流となった今日では、実に勇気あることと言えます。

ラベル上の調香師たちの名は、そのようなマルの潔さをも表しているのですね。

 

画像3(画像3)調香師たちの肖像画がずらり。

 

シンプルを極めた香水瓶が置かれているのは、一転して個性豊かな空間です。

なんと壁も天井も鏡張りなのです。さらに有機的な形の木製キャビネットが設置されています。落ち着いた照明も相まって、SF小説で描かれる近未来へ来てしまった気がしてまいります。

 

画像4(画像4)ブティックのインテリア。

 

私はこちらで香水専用試着室を体験いたしました。                                                     「試着」とはいっても、ここで纏うのは服ではなく香水。            下の画像のようなキャビネットの中に香水を吹きかけて頂き、香りを嗅ぎます。

暗闇の中に立ち上る芳香。 一瞬にして言葉を失います。

嗅覚を研ぎ澄まして出会う香りは、かようにも雄弁であるのかと気づかされました。

 

クリザンテーム

 

 

画像5(画像5)「さあ、どうぞ」 ムッシューが香水試着室の扉を優雅に開けてくれます。照明の灯る右隣の棚は

     温度を一定に保つ香水専用のカーヴです。

 

Remerciements

本記事執筆にあたり、ご協力頂きましたエディション・ドゥ・パルファン フレデリック・マル社のデルファン氏およびエリカ・ペシャール=エルリー博士に心より御礼申し上げます。

Je tiens à exprimer mes remerciements à Delphin, Editions de Parfums Frédéric Malle et Dr. Erika Pechard-Erlih qui ont permis de réaliser cet article.

第1回 香水散歩  パリ マレ地区 
   コニャック=ジェイ美術館 

はじめまして。海の見える杜美術館の香水瓶担当の学芸員クリザンテームです。香水瓶や美術作品を求めて、日本はもとより世界中を旅しています。

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本日は、パリの中世の街並みが残るマレ地区へまいりました。まずはコニャック=ジェイ美術館を訪問いたします。というのも、こちらの美術館では、当館所蔵の香水瓶(画像1-5)と同時代にあたる18世紀美術の素晴らしいコレクションを見ることができるからです。

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1《ネセセール》イギリス、1760-1765年頃、瑪瑙、ルビー、金、象牙、ガラス、海の見える杜美術館
2《香水瓶》フランス、1720-1730年、金属に金メッキ、海の見える杜美術館
3《ネセセール》フランス、1785年頃、マザー・オブ・パール、銀、透明ガラス、金属に金メッキ、海の見える杜美術館
4《香水瓶》フランス、1785年頃、透明ガラス、金、象牙、海の見える杜美術館
5《香水瓶》フランス、1740年頃、金、海の見える杜美術館

 

パリで最も古い建物のひとつ、ドノン館に設えられた展示室には、デパート「サマリテーヌ」の創業者夫妻が蒐集したロココ様式や新古典様式の絵画や家具調度品による、18世紀の室内空間が再現されています。《ネセセール》等の香水瓶が好まれた、当時の王侯貴族の生活をより理解するには、まさにうってつけの場所といえるでしょう。

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コニャック=ジェイ美術館展示室
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展示室に足を踏み入れると、そこには曲線美を誇る寄木細工の家具や金銀細工の燭台セット、マイセンをはじめとする磁器製品といった、18世紀美術を特徴づけるものがずらりと並んでいます。キャビネットの中には、当館所蔵作品と同型の作品がいくつも見出せました。

当時は、画家でいえば「雅宴画」を得意としたヴァトーやフラゴナールらが活躍した時代ですが、コニャック=ジェイ美術館にかけられた絵画や何気ない装飾の中にも、恋愛の駆け引きの場面が生き生きと描かれていました。それらからは、18世紀には雅な情事が人々の道楽でありエチケットでもあったことがよくわかります。 私はふと、当館所蔵のセント・ボトルとボンボニエール(菓子器)が一体となった作品を思い出しました。かつてそのボンボニエールには、香り付きドロップスが入れられていたといわれています。宮廷において、愛のささやきの効果を得るためには、香水はもちろんのこと、口臭にも気を配る必要があったのですね。この美しい室内空間にいると、吐く息までも香り豊かなものでありたいと願う昔日の貴族たちの姿が身近に感じられるのです。

クリザンテーム

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《セント・ボトルとボンボニエール》イギリス、サウス・スタフォードシャー、ビルストン、1760年頃、七宝、金属に金メッキ、海の見える杜美術館

 

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ジャスミンが香る中庭で一休み。

 

ワークショップ「オリジナル指輪付き香水瓶を作ろう」を開催しました

早いもので、もうすぐ梅雨の時期ですね。インドア派の人間としては生活にそれほど影響はないのですが、季節の移り変わりをしみじみ感じております。遊歩道はそろそろアジサイがきれいですよ。

 

5月3日、当館では、今回の香水瓶展に関連してワークショップを行いました。 「オリジナル指輪付き香水瓶を作ろう!」というものです。 この企画、大変多くのお申し込みのお電話をいただき、企画した本人も驚きました。人数の関係で、おことわりをしなければならなかったことが本当に残念です。今度、作り方などをご説明する記事をアップいたしますので、自分でもやってみよう!という方がもしいらっしゃいましたら、そちらをご参考いただければと存じます。

 

今回の展覧会は、幅広い時代と地域における香りに関わる品々を展示しております。 個人的な意見ですが、香りとその瓶のあり方について、私が見るたびに新鮮な驚きを感じるのは、17世紀の《ポマンダー》、18、19世紀の《指輪付き香水瓶》です。両者とも、なんと身につけることのできた香りの器です。

ポマンダー(pomander)はリンゴを意味する「ポム(pomme)」と竜涎香とも呼ばれる香料の名「アンバーグリス(ambergris)」の2語がつながって生まれた言葉です。これは、香りの容器であると同時に、鎖につなげて腰から提げ、身を飾るためのアクセサリーでもありました。《指輪付き香水瓶》は、その名の通り指に指輪をはめ、舞踏会などの社交の場に持っていくことができました。当時の女性はコルセットで体を締め上げていたため、失神することが多く、気付け薬用に香りのついた酢などを持ち歩いていたのです。

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《指輪付き香水瓶》 スイス 1820年

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《指輪付き香水瓶》 スイス 1820年

 

現在、おしゃれな一部の方は香水のアトマイザーを持っておでかけされるでしょうが、それを見せるためのものとして持たれている方はあまりいないのではないでしょうか。香りという今の私たちにとって身近なものであっても、時代や場所、使っていた人の立場によってその使い方は異なりますね。過去の作品と出会う楽しさはこういうところにあるのではないかなと思いますが、いかがでしょう。

もう今、こんな香水瓶は売っていない・・・というより、19世紀にだって簡単に手に入るものではなかったのです。でも、ちょっと使ってみたい、手に入れてみたいとは思いますよね。今回展示している香水瓶、ほとんどが「実際に使われていたもの」であり、「誰かが持っていたもの」です。だから、「使ってみたい!」「ほしい!」という気持ちがわきおこるのも鑑賞していて自然なことです。

・・・というわけで、私がその気持ちに素直に従った結果、このようなワークショップ企画とあいなりました。皆さん、自分でオリジナル指輪付き香水瓶、作ったらいいんですよ!

楽しく創作していただきたいし、ちょっと作品のことも知っていただければうれしいな・・・ということで、展示室で少し私の解説―香水瓶に見られる時代ごとの好み、図像にこめられた意味―などを聞いていただいて、「だったら現在の私たちが作る最高の指輪付き香水瓶ってどんなものだろう?」というのを少し考えていただきながら作っていただきましたよ。

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このような土台に自分でデコレーションしていきます。 実際に香水が入れられます。

では参加してくださった皆さんの作品のお写真です!

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個性が出ますよね。自分だったらこういうデザイン思いつかないな、という作品がいくつもありました。 時間のご都合で帰られた方の作品は撮れませんでした・・・ごめんなさい。

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この方は18世紀の香水瓶からインスピレーションを得て作ってみたとのこと。 たしかにふんだんな植物モチーフやカメオ的なモチーフが18世紀的ですね。

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この方は「ベルサイユのバラ」をイメージしました!とのことでした。 たしかに池田先生のマリーアントワネットが着ているドレスを思い出します、私。

皆さん、ご自分が見てきたもの、好きなものの記憶を活かして素敵な作品を作ってくださいました。限られた時間と材料でのワークショップでしたが、皆さんとても生き生きと制作してくださって、大変うれしかったです。 瓶に香水を入れて、指にそっとはめてみてくださいね。

今後も皆さんと美術との関わりが少しでも豊かなものになるような企画を考えて生きたいと思います。精進していきますので、もしまたこのような機会がありましたらぜひ当館へ足をお運びいただければと思っております。 それではまた!

 

森下麻衣子