展覧会の一枚 《蘭亭曲水図》塩川文麟

だんだんと暖かくなってきましたね。

遊歩道では桃が花盛りとなってきましたが、美術館に展示してある作品にも、桃の花が咲いているものがあります。
《蘭亭曲水図(らんていきょくすいず)》がそれです。

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この絵は、王羲之(おうぎし)という人の逸話を描いたものです。
王羲之は、今から1700年ほど前の中国で活躍した人物で、書の聖人としてその名が知られています。

201402蘭亭曲水図2

 

画面真ん中の建物内の中央に座っているのが王羲之さんです。
ちなみに建物の外にいるガチョウは王羲之のペットです。彼はこのガチョウの首の動きから、筆の動かし方を学んだ、という話も残っています。

 

この王羲之は永和9年(353)3月3日に友人たちを蘭亭という庭園に招いて、宴を開きました。
3月3日の開催とあって、桃が咲いているわけですね。
この絵に描かれているのは、その時にやった遊びの様子です。
201402蘭亭曲水図3

 

 

この遊び、ぐねぐね曲がった川べりに座って、詩を書くというもの。
でも、ひとつルールが決められています。
それは、上流から流れてくる盃が自分の前を通るまでに詩を2首書き上げなければならないのです。
もし詩を書き終わるよりも先に盃が自分の前を通ったら、罰ゲームとして、酒を飲まなければなりません。

記録によれば、参加者総数41人のうち、1首も詩を作れなかったのは16人もいたとか。けっこうハードな結果です。
この絵を見ると、あまり酔っぱらった人が見当たりませんから、遊びの序盤の様子を描いたものなのかもしれません。

201402蘭亭曲水図4

それどころか、流れてくる盃を取って飲もうとしている人もいます。
酒飲みにはこの罰ゲーム、あまり罰になってないようです。

 

なんとも優雅なこの宴は、後の時代の文人たちの憧れの的で、日本では特に江戸時代に、たくさんの蘭亭曲水図が描かれました。

この作品を描いた塩川文麟(しおかわぶんりん)は、幕末から明治初期に京都で活躍した画家です。
描かれたのは、明治の到来を5年後にひかえた文久3年(1863)であることが、絵の中に書かれた年記よりわかります。
幕末の動乱期、絵の中くらいでは少しでも雅な世界を感じていたいという、画家の気持ちが反影されているのかもしれませんね。

田中伝