部屋とワンちゃんと龍子

当館所蔵の川端龍子(かわばた りゅうし、1885~1966)筆《春椽愛狗図》に関して、ちょっと面白いことがわかりました。
20160408-1春緑愛狗図   川端龍子 
梅の咲く季節、可愛い犬が縁側に前足をかけて、こちらを見ています。春の初め、あたたかくなってきて散歩に行きたいのかもしれませんね。

実物は結構大きな絵で、縦は140センチ、横は70センチを越えます。作者の川端龍子は、「会場芸術」を主張して、展覧会映えのする大きな絵をよく描いていましたので、このように日常のちょっとした光景を描いた作品でも、これだけ大きな作品に仕立てています。

この作品について、龍子の身の回りの光景を描いたものだろうという漠然とした見方しかこれまでできていなかったのですが、先日、大田区立龍子記念館の学芸員の木村拓也さんにお話をうかがう機会があり、描かれているのはどうやら龍子のアトリエの縁側であるらしいとわかってきました。
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大田区立龍子記念館の隣には龍子のアトリエと庭が今も残っています。
ちょうど、作品と同じように、梅の花咲く時期にお邪魔しました。(許可を得て撮影しました)
完全に、とまでは言いませんが、梅の木の場所がほぼ一致です。アセビの場所が変わっていますね。植え替えられているかもしれませんし、もしかしたら龍子が絵の構図上おさまりのいい場所に描いたのかもしれませんね。

このアトリエの縁側が、今の一般的な縁側より少し高めであることも、行ってみてわかりました。普通の縁側から見た光景にしては、樹木の高さが合わない…と思っていましたが、なるほどそれならこの画面も無理ではない、と考えることができます。

犬がまるで目の高さにいるように思いますが(当館の学芸の中でも塀に足をかけていると思っていた人もいました)龍子はこのアトリエの床に絵絹をおいて座り、下を向いて絵を描いていることが多かったようです。絵を描いているときにふと目を縁側にやると、飼っている犬が、こちらを見ているのに気づいた、というところではないでしょうか?と木村さんからご意見をいただきました。なるほど!

でも不思議に思うのが、この縁側だけは上から見たように見えるんですよね。やけに幅が広いなと。
龍子は、幻想と現実が入り混じったような絵画を描くことも多々あります。実際どう見えるかよりも、着想をはやく絵にすることを重視していたように思うのです。もしかしたら、視点が現実と違ったからといって、気に留めるところではなかったのではないでしょうか?

ちなみに、これは、昭和16年春の青龍展(龍子が主催していた展覧会)に出品された作品であることが残された資料から分かっています。すでに軍靴の音が聞こえていた時代ですね。龍子は、戦争をテーマにしたダイナミックな作品も描いていますが、それとは真逆ともいえるような、花鳥風月をテーマとした優しい作品も描いており、春の青龍展には、毎年そのような傾向の作品を出していたのだそう。

龍子は、意外にも実際には自宅の庭にある植物や動物を見て絵にすることが多かったようです。龍子記念館に行けば、作品もさることながら、その元ネタであるアトリエとお庭も見ることができます。毎日3回ツアーがあります!私が行った時期は庭の池にいるカエルたち(結構大きい)が子犬のようにクゥクゥ鳴いていました…かわいかったです。

4月19日からは、また企画展が開催され、当館の子とは違うワンちゃんを描いた作品が出品されるようです。龍子の作品は大きくて迫力があるし、思いもよらないような幻想の世界を見る事が出来るので、楽しいですよ!詳しくは大田区立龍子記念館のHPにて。
http://www.ota-bunka.or.jp/facilities/ryushi/tabid/218/Default.aspx
プレスリリースでは犬が描かれた作品の画像を見ることができます↓
http://www.ota-bunka.or.jp/Portals/0/images/facilities/ryushi/latest_exhibition/press_kusagami.pdf

この記事を書こう書こうと思いながらはや一ヶ月半。もう梅の季節は過ぎて桜が咲いて散りそうです。今年度は早め早めに行動を心がけたいものです。

ちなみにブログ記事のタイトルは平松愛理の「部屋とYシャツと私」に寄せてみたのですが気づいていただけましたでしょうか。どうでもいいかもしれませんが割と真剣に考えたので念のためお伝えしておきます。

森下麻衣子