展覧会
二十四孝図 ―ふしぎで過激な親孝行

中国を中心とする東アジアの儒教世界において、子が親に孝養(こうよう)を尽くす孝子(こうし)・孝女(こうじょ)の説話は一般に流布し、絵画化も早くから行われました。長い年月を経て伝えられてきた様々な孝子説話は、中国・元時代に24の物語とその図が版本として再編纂(へんさん)されました。日本では室町時代以降にこのような版本を中心に二十四孝図が広まったと考えられ、特に室町時代後期から桃山時代にかけて画壇を牽引していった狩野派による障壁画や扇面画の優品が残されています。本展覧会は、日本の二十四孝図の受容の実態と変容の在り方に着目した初めての展覧会です。儒教思想を示す勧戒画(かんかいが)の一つとしてばかり捉えられてきた二十四孝図の、これまであまり知られてこなかった亡き親への追慕(ついぼ)、追善(ついぜん)という性格を、狩野派の作品を中心に解き明かします。
【基本情報】
[会期]2025年3月15日(土)〜2025年5月6日(火・休)
[開館時間]10:00〜17:00(入館は16:30まで)
[休館日]月曜日(ただし5月5日(月・祝)、6日(火・休)は開館)
[入館料]一般1,000円 高・大学生500円 中学生以下無料
*障がい者手帳などをお持ちの方は半額。介添えの方は1名無料。*20名以上の団体は各200円引き。
[タクシー来館特典]タクシーでご来館の方、タクシー1台につき1名入館無料
*当館ご入場の際に当日のタクシー領収書を受付にご提示ください。
[主催]海の見える杜美術館
[後援]広島県教育委員会、廿日市市教育委員会
【章立て・主な出品作品】
第1部 二十四孝図 ―描かれた東アジアの孝子たち―
数ある孝子説話の中から二十四孝として選ばれたメンバーの構成は、決して一定したものではありません。孝子たちのほとんどが歴史に名を残さない庶民たちで、こんな孝行とても無理です、といった過激な話や、奇瑞譚(きずいたん)や霊験譚(れいげんたん)も多く綴られています。第1部では、そんな孝子たちのふしぎで過激な親孝行の物語を、新出の狩野玉楽(かのうぎょくらく)《二十四孝図扇面》(室町時代、個人蔵)全24図とともにご紹介します。


民間における二十四孝観
当館所蔵の中国版画の中から、17世紀後半まで遡る貴重な二十四孝図の作例をご紹介いたします。祖先を崇拝し、孝子による家門の繁栄と永続を願う中国の民間信仰をよく伝える作品です。また、歌川国芳(うたがわくによし、1797~1861)の《唐土廿四孝》(とうどにじゅうしこう)の揃物(そろいもの)や、江戸時代に刊行された版本など、江戸庶民の孝子観がうかがえる作品もご覧いただきます。


第2部 二十四孝図の諸相
これまで日本の二十四孝図は、近世封建社会の秩序を支えた儒教思想の絵画としてのイメージが強かったといえますが、中世からのその受容史を振り返ると、亡き親の追悼のための追善供養や祖霊鎮魂、さらには家門の繁栄につながる吉祥的な意味合いも兼ね合わされて受け入れられてきたことが指摘できます。第2部では、亡き親の追善供養のために注文されたと考えられる狩野永徳(かのうえいとく)《二十四孝図屏風》(福岡市博物館蔵)や、百回忌の追善供養に使用された記録とともに伝存する、永徳の父狩野松栄(かのうしょうえい)による《二十四孝図屏風》(洛東遺芳館蔵)といった作例とともに、追善としての二十四孝図をご紹介します。


関連展示 中国版画にみる二十四孝図
中国版画の二十四孝図は、あまり研究が進んでいない分野のひとつです。しかしながら、古くは清代康煕年間の蘇州版画、新しくは20世紀の年画までおよそ500年にわたる作品の所在を確認することができます。
当館は清代の木版画に限定すると23種74点を所蔵しており、その数は現段階においては世界で確認できる実物の半数以上にあたるようです。そこで、本展を機に所蔵品を網羅的に公開することといたしました。
作品を一覧すると、二十四孝図には「孝行録」「全相二十四孝詩選」「日記故事」の3系統があると言われますが、版画は「日記故事」の系統が主流であることが分かります。また絵画同様に啓蒙・勧戒・追慕・追善の役割のほか、道教・民間信仰と融合した吉祥、あるいは文人趣味としての清供文物としての性格なども見ることができます。本展覧会からさまざまな”発見”がもたらされ、ここから新たな研究が始まることを願っています。



