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幸若舞曲と絵画 -武将が愛した英雄たち-

【趣 旨】

幸若舞曲とは、室町時代から江戸時代にかけて流行した芸能の名称です。源平合戦に取材した物語や、源義経を主人公とした義経物、曽我兄弟の仇討ちの顛末を伝える曽我物など、武士の活躍を題材にした演目が多く、戦国武将たちに愛された芸能のひとつでした。桶狭間の戦いを前にした織田信長が、幸若舞曲「敦盛」の一節を舞ったエピソードはことに有名です。江戸時代初期、17世紀には、この幸若舞曲を主題とする絵巻や絵本、屏風などを、大名をはじめとする人々が熱心に求めたようで、金や鮮やかな色彩で彩られた豪華な作例が多数残されています。本展覧会は、当館所蔵の《舞の本絵本》(全47冊)を軸に桃山時代から江戸時代の作例を展示し、幸若舞曲を主題とする絵画をまとめてご紹介する初の試みです。武将たちが愛した贅沢で華やかな物語絵の世界をお楽しみください。

チラシPDFダウンロードはこちら

【基本情報】

[会期]2019年3月2日(土)〜5月12日(日)
[開館時間]10:00〜17:00(入館は16:30まで)
[休館日]月曜日(ただし祝日の4月29日、5月6日は開館)、5月7日
[入館料]一般1,000円 高・大学生500円 中学生以下無料
*障がい者手帳などをお持ちの方は半額。介添えの方は1名無料。*20名以上の団体は各200円引き。
【タクシー来館特典】タクシーでご来館の方、タクシー1台につき1名入館無料
*当館ご入場の際に当日のタクシー領収書を受付にご提示ください。
[主催]海の見える杜美術館
[後援]広島県教育委員会、廿日市市教育委員会


【イベント情報】

■公開シンポジウム「『舞の本』と華麗なる江戸絵巻・絵本の世界」 このイベントは終了しました。

幸若舞曲がいかに描かれ、享受されたのか。本展覧会の監修者、小林健二氏(国文学研究資料館 名誉教授)をメインスピーカーに、国文学と美術史の研究者が江戸時代初期、17世紀に花開いた新しい絵巻・絵本の世界をひもときます。
なお、本シンポジウムは科学研究費基盤研究(B)17H02314「語り物を題材とした絵巻・絵本の国際的調査研究」の協力を得て開催します。
【日時】4月13日(土)13:30〜(受付:12:30〜)
【会場】海の見える杜美術館 シンポジウム会場

スケジュール:
13:30 開会挨拶 海の見える杜美術館館長 梅本道生
13:35 基調講演 「『舞の本』を粉本とした絵本と絵巻」 国文学研究資料館 名誉教授 小林健二
14:35 研究発表「詞書に見る17世紀絵巻群」 慶應義塾大学 教授 石川透
15:00 研究発表「17世紀における中世絵巻の再生」 東京大学 准教授 髙岸輝
15:35 休憩
15:50 ディスカッションと質疑応答
16:50 閉会

当館学芸員によるギャラリートーク

[日時]3月23日(土)、4月20日(土)、5月4日(土) 13:30〜(30分程度)
[会場]海の見える杜美術館 展示室
[参加費]無料(ただし、入館料が必要です)
[事前申し込み]不要

当館学芸員によるスライドレクチャー

[日時]5月3日(金・祝) 13:30〜14:30
[会場]海の見える杜美術館 展示室
[参加費]無料(ただし、入館料が必要です)
[事前申し込み]不要
[定員]20名


【展示概要】

第1部 幸若舞曲と『舞の本』―武将のアイデンティティを描く

幸若舞曲は戦国武将に人気のあった物語に節をつけて語る「語り物」というジャンルの芸能です。その演目の中で三十六曲の台本を絵入りの読み物にした『舞の本』が江戸時代のはじめに出版され、この版本をもとに贅を尽くした絵巻や絵本が作られました。当館所蔵の《舞の本絵本》や、日本大学図書館所蔵の《幸若舞曲集》がそれにあたり、いずれも松平家などの大名道具であったと考えられます。豪華な絵巻や絵本は見て楽しむだけではなく、大名家のお宝として珍重されました。

特に好まれた曲目は、単独の作品としても絵画化されていきます。室町時代から江戸時代初期にかけての上演記録が最も多い「大織冠」は、藤原鎌足の玉取伝説に取材した物語で、大画面の屏風絵も数多く制作されました。

《舞の本絵本》「信田」2冊のうち上
江戸時代 17世紀 海の見える杜美術館
《舞の本絵本》全47冊
江戸時代 17世紀 海の見える杜美術館

山本元休筆《大職冠図屏風》 六曲一双 江戸時代 17世紀 東京富士美術館
(C)東京富士美術館イメージアーカイブ / DNPartcom


第2部『継承と展開 ―栖鳳からの影響と画風の形成―』

源義経の波乱に満ちた生涯は、兄の源頼朝に追われ自刃するという悲劇で幕を閉じますが、牛若丸と呼ばれた幼少期から、成人して平家相手に武勲を誇り、やがて迎えるその死まで、すべてが後世の人々に愛されました。母の常盤御前の物語もふくめれば、幸若舞曲三十六番のうち十三曲、実に三分の一が義経に関わる物語で占められています。中でも「烏帽子折」は、義経の元服というめでたい内容のためか、好んで絵画化されています。義経の物語は虚実とりまぜた伝説をまとって展開し、幸若舞曲と同時代に作られたお伽草子に描かれる義経は、天狗と出会い、稀なる美女と恋をし、冒険の果てに伝説の兵法書を手に入れるなど、ファンタジーに彩られたヒーローとして語られます。

《銀地烏帽子折物語絵巻屏風》六曲一双 桃山時代 16世紀末 手錢記念館

《天狗の内裏絵巻》2巻 江戸時代 17世紀
海の見える杜美術館

第3部 源平合戦―悲劇と武勇の華

《舞の本絵本》の制作と同時期に、『保元物語』、『平治物語』、『平家物語』、『源平盛衰記』など、源平合戦に関わる軍記を主題にした豪華な絵巻や絵本が大名道具として盛んに作られました。武家の世の到来をドラマチックに語るこれらの軍記は、江戸時代の武家にとって自分たちの来歴を明らかにする名誉の物語でもありました。幸若舞曲でも源平合戦に関わる演目は九曲を数えます。織田信長が桶狭間の戦いを前に舞った「敦盛」は、合戦のさなかに起こった悲劇を主題とします。ですが、幸若舞曲に取り上げられた源平合戦に関わる曲は、血なまぐさい戦いそのものではなく、頼朝の挙兵とその治世を言祝ぐエピソードを語るものが大半で、芸能としての幸若舞曲が持っていた祝言性がうかがえます。

《平家物語扇面画帖》2帖 江戸時代 17世紀 海の見える杜美術館
《源平盛衰記絵本》50冊 江戸時代 17世紀 海の見える杜美術館

第4部 源平合戦―悲劇と武勇の華

仇討ちの物語はいろいろありますが、曽我兄弟の仇討ちほど人々に愛され、文芸に影響を与えた話はありません。彼らの父の仇は源頼朝の重臣、工藤祐経でした。頼朝主催の富士の巻狩に乗じて仇を討ち、壮絶な死を遂げる兄弟の物語は『曽我物語』として語り継がれ、室町時代以降は盛んに絵に描かれていきます。幸若舞曲では、弟の元服から兄弟の死までを六曲で物語ります。特に、曽我物のハイライトといえる「夜討曽我」(巻狩からその夜の仇討ちまで)と「十番切」(仇討ち後の決闘と兄弟の死まで)は、屏風や絵巻、絵本の主題として高い人気を呼びました。兄の十郎祐成は色白の優男、弟の五郎時致はぎょろっとした目が印象的な力自慢として描かれます。

土佐光吉筆《曽我物語図屏風》 六曲一双 桃山時代 16世紀 渡辺美術館 撮影者:吉岡由哲 井口華秋《舞踊》海の見える杜美術館蔵

狩野春雪筆《夜討曽我絵巻》 9巻のうち巻1 江戸時代 17世紀 海の見える杜美術館