展覧会
うみもりコレクション物語絵名品展 世にも美妙なものがたり
貴族の男女の華やかな恋愛や、武士たちの勇ましい戦い、神仏の霊験、鬼や天狗の愉快な活躍など、日本には魅力的な物語があふれています。このような物語は、古来盛んに絵に描かれて、絵本や絵巻、屏風などの形で広く親しまれてきました。
2026年の春期特別展では、ユニークな物語絵のコレクションで知られる海の見える杜美術館の所蔵品の中から、初公開の作品も含め、物語絵の名品を選りすぐってご紹介します。『源氏物語』や『平家物語』などの古典文学に始まり、室町時代に様々な階級の人々が好んだお伽草子、能や浄瑠璃などの芸能の形で享受された種々の物語など、古の人々を惹きつけてやまなかったお話をお楽しみいただきます。それと同時に、室町時代に描かれた素朴な美しさを持つ小さな絵巻物から、江戸時代のお姫様の嫁入り道具だった大きく豪華な屏風まで、多様で美しい物語絵の世界をご堪能ください。
【基本情報】
[会期]2026年3月14日(土)〜2026年5月6日(水・休)
[開館時間]10:00〜17:00(入館は16:30まで)
[休館日]月曜日(ただし5月4日の祝日は開館)
[入館料]一般1,000円 高・大学生500円 中学生以下無料
*障がい者手帳などをお持ちの方は半額。介添えの方は1名無料。*20名以上の団体は各200円引き。
[タクシー来館特典]タクシーでご来館の方、タクシー1台につき1名入館無料
*当館ご入場の際に当日のタクシー領収書を受付にご提示ください。
[無料マイクロバス運行のご案内] ![]()
開館日は、JR阿品駅と海の見える杜美術館駐車場を往復する無料マイクロバスを運行いたします。
どうぞお気軽にご利用ください。
※詳しくはこちらをご覧ください。
[主催]海の見える杜美術館
[後援]広島県教育委員会、廿日市市教育委員会
【イベント情報】
■記念講演会
「源氏物語の絵画と海杜コレクション(仮)」
日時: 2026年4月26日(日)午後2時~(開場15分前)
会場: はつかいち文化ホール ウッドワンさくらぴあ小ホール
(広島県廿日市市下平良1‒11‒1)
講師: 佐野みどり氏(國華主幹・学習院大学名誉教授)
参加費:無料
◆特別鑑賞会のおしらせ
講演会後、展覧会観覧ご希望の方に、特別鑑賞会を行います。
講演会会場から海の見える杜美術館へは、バスをご用意いたします(帰りのバスは午後6時頃に海の見える杜美術館を出発、広電廿日市市役所前駅着)。参加を希望される方は、講演会お申込みの際に参加希望の旨をご記入ください。
申し込み方法:往復はがきまたはメールにてお申し込みください。
「物語絵展講演会参加希望」(メールの場合件名として)をご記入の上、
①参加人数、②参加希望者全員の氏名、③代表者の住所、④代表者の電話番号、⑤特別鑑賞会に参加ご希望の方はその旨を明記し、4月13日(月)までにお申し込みください。
返信はがきの宛先には、代表者の住所氏名をご記入ください。
当館より折り返しご連絡いたします。
なお、定員に達し次第締め切りとさせていただきます。
はがき宛先:〒739-0481 広島県廿日市市大野亀ヶ岡10701
海の見える杜美術館 物語絵展講演会係宛
メール宛先:event@umam.jp
問い合わせ先:海の見える杜美術館 Tel.0829-56-3221
■当館学芸員によるギャラリートーク
日時: 2026年3月21日(土)、4月18日(土)、5月2日(土)
各日午後1時30分~(45分程度)
会場: 海の見える杜美術館 展示室
参加費:無料(ただし、入館料が必要です)*事前申込不要
1章 殿・姫たちのお道具―持ち物としての物語絵
大名道具とは、江戸時代の大名家に伝わった絵画、書籍、武器や武具、調度品などのお道具のことです。その所蔵や伝来の経緯は様々ですが、大名家として相応しいお道具を持つことは権力者にとって非常に重要であったようです。
物語絵もまた、古典の教養を伝え、大名家の文化的威光を飾るお道具として大切にされました。江戸時代には当時一流の絵師に制作を依頼し、または贅を尽くした表装を施し、中には何十冊からなるような大部の絵巻や絵本を注文制作させたものなどもあり、現代にも多くの作例が伝わっています。各藩の残した伝来品のリストや、近代に入って武家が解体され、それらを手放す時に制作された売立目録などから、現在様々な場所に残されたお道具のかつての所蔵先を知ることができます。海の見える杜美術館には、大名家の所蔵であったことが記録から明らかな《源氏物語図屏風》、《村松物語絵巻》などの他にも、絵のテーマの選択から大名道具としての性格が伺われる《大原御幸・犬追物図屏風》など、大名道具として所蔵、鑑賞されたと考えられる物語絵がコレクションされています。往時のお殿様、お姫様たちの目を楽しませたであろう名品の数々をご覧ください。



2章 をかしくあはれな恋物語―貴族の恋を描く
平安時代前期以降、仮名で書かれたフィクション、「ものがたり」が制作、鑑賞されるようになります。王朝物語とも呼ばれるこれら物語文学の中でも、成立当初から後世にいたるまで、最も愛好されたのが、ここでご紹介する『伊勢物語』と『源氏物語』でしょう。
『伊勢物語』は、九世紀から十世紀にかけて成立した歌物語です。主人公の「男」の元服から死までを、恋愛や交友、失意の流浪や遊興などを内容とする短い百二十五段の物語で構成したもので、和歌を中核とする歌物語の代表作として知られます。主人公の「男」のモデルは和歌の名手、そしてプレイボーイとしても名高い実在した貴族、在原業平とされ、作中の和歌には『古今和歌集』などに載る業平の和歌が多く含まれています。
『源氏物語』は十一世紀初頭に紫式部によって創作された長編物語で、主人公、光源氏の生涯と、その没後の一族の生活を綴った全五十四帖からなります。光源氏をめぐる多様な人間関係と、彼らの恋愛や境遇を巡る複雑な心情の描写には、物語中に含まれる約八百首の和歌が重要な役割を果たしています。
『伊勢物語』、『源氏物語』ともに、その絵画化は物語の成立直後から始まったと考えられ、それぞれ「伊勢絵」、「源氏絵」と呼ばれます。本章では、江戸時代における画帖、絵巻、屏風など、多様な形式で表現された伊勢絵、源氏絵をご紹介します。


3章 読んでよし、観てよし―芸能の物語絵
当館の物語絵コレクションのユニークな特徴のひとつに、能や古浄瑠璃、幸若舞曲などの中世芸能の詞章に絵をつけた、芸能の絵画の充実が挙げられます。これら中世芸能は舞台芸能として享受されたのみならず、その詞章が読み物として楽しまれ、さらに、それに絵をつけた形で愛されました。能の絵画化の例として《松風村雨絵巻》、《三井寺絵巻》(作品番号14)があります。いずれも室町時代に隆盛した小絵と呼ばれる小さい料紙に描かれた形状で、型にはまらない素朴な味わいが魅力です。
《村松物語絵巻》は、浄瑠璃の演目「むらまつ」を絵画化したものです。奇想の絵師と言われる岩佐又兵衛の絵画様式をひく、古浄瑠璃を豪華な絵巻にしたてた一連の岩佐又兵衛風古浄瑠璃絵巻群のひとつに数えられる名品です。
幸若舞曲は、戦国時代から江戸時代初期にかけて能と並ぶ人気があった語り物芸能です。源平の合戦や曽我兄弟の仇討ちなど、武士の活躍を題材にした演目が多く、武家に好まれました。織田信長が桶狭間の合戦の前に舞った「敦盛」も、幸若舞曲の演目の一つです。様々な軍記物語のダイジェスト版とも言うべきその面白さから、読み物としても楽しまれ、絵巻や絵本、屏風などに絵画化されていきます。
芸能と文学、そして絵画という、現代でいうところのメディアミックスの芸術のバラエティ豊かな世界をご覧ください。




4章 いくさの物語―修羅と鎮魂の絵画
「祇園精舎の鐘の声……」に始まる『平家物語』は、平安時代末期に起きた日本の社会の変動を平家の盛衰に沿って物語る一大叙事詩です。平家一門は、平清盛が朝廷での立場を得、娘の建礼門院徳子が安徳天皇を出産し栄華を極めた後、平家から権勢を取り戻さんとする源頼朝の軍勢と各地で戦を繰り広げます。一門は都落ちし、瀬戸内海を転々とした後、壇の浦に沈み滅亡します。その後大原の地で一門の菩提を弔う建礼門院の往生を語り、物語は幕を閉じます。この物語は書物として読まれただけでなく、琵琶法師らの語りによって広く親しまれてきました。能などの芸能のテーマにもなり、江戸時代には印刷物の普及を通して庶民にも浸透していきます。そして名場面は絵画としても楽しまれました。
『平家物語』というと、一の谷や屋島における武者たちの活躍が知られ、合戦の場面を描いた作品が多く残されますが、桃山時代に描かれた大原に隠棲する建礼門院を白河上皇が訪ねる「大原御幸」をテーマにした「大原御幸図」など、『平家物語』が中世に持っていた「鎮魂」の性格を表す絵画も注目されます。江戸時代以降においては『平家物語』を始めとする軍記物は、武家の祖、源氏の活躍を描く物語として武家の必読の書となり、その絵画も武家としての規範を示すものであったと考えられます。この章では、武家文化の多様な面を映し出す『平家物語』を中心とした軍記の絵画の世界をお楽しみいただきます。



5章 世にも不思議なものがたり―霊験譚とお伽草子
古来、人間には理解できない天変地異や不思議な出来事などを、人々は物語として編み、語ってきました。天神や八幡神など、現代の我々にも親しみのある神様や仏様も主人公となりました。
《北野天神縁起絵巻》や《八幡縁起絵巻》もそのような物語で、神や仏の由来を語る縁起を絵巻にしたものです。これら神仏の霊験を物語った縁起絵巻は社寺に奉納されるなどされ、大切に現在に伝えられてきました。
室町時代になると、「お伽草子」と呼ばれる短編小説が多岐に渡る内容で数多く制作されるようになります。お伽草子を代表する物語のひとつ、《文正草子絵巻》は、庶民出身の正直者の主人公が富を得るお話で、かつてはお正月のおめでたい席で読まれていました。これらお伽草子にはテキストのみ伝わるものもありますが、多くはこの章でご覧いただくように、多彩な絵とともに楽しまれました。室町時代の絵巻にしばしば見られる素朴な絵画表現を伝える《住吉物語絵巻》から、《十二類合戦絵巻》のように徳川家の画事も務めた狩野派の絵師によるものまで、絵のバラエティも魅力のひとつです。往時の人々がいかに身近に物語を愛し、不思議な出来事に驚き、困難を乗り越える主人公たちに気持ちを寄せてきたか、絵と物語を通してご覧ください。




