第3回海の見える杜美術館
彫刻ビエンナーレ
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作品制作の様子
彫刻ビエンナーレ審査結果のお知らせ
このたびの彫刻ビエンナーレでは、多数のご応募を頂きました。皆さま、誠にありがとうございました。
応募総数 40件の中から 厳正な審査の結果、大賞及び奨励賞を以下の作品に決定いたしましたのでここに発表いたします。
審査風景
受賞作品
大賞: 作品名 杜の時空穴(もりのじくうあな)
  作者 朝野浩行(あさのひろゆき)
  制作意図 杜の中の時空が出たり入ったりする穴を彫刻として 表現しました。悠久な時間が呼吸をしているような感じを石の素材で形にしてみました。 杜の遊歩道でこの彫刻の穴から覗ける時空の風景を楽しめる彫刻にしたいと思います。
  サイズ 幅330cm 奥行き50cm 高さ150cm
  重量 約3,500kg
  材質 花崗岩
杜の時空穴≪朝野浩行≫※写真は試作品です。
※大賞作品は、2010年に実作品となって杜の遊歩道へお目見えする予定です。
優秀賞: 該当作品なし
奨励賞: 作品名 瀬戸の風(せとのかぜ)
  作者 井上なぎさ
  制作意図 人が光と風と解け合い、自然の一部となる。 そんな彫刻をつくりました。
銅板の打ち出しと透かしによる軽快感を効果的に造形の中に取り込んでみました。
  材質 彫刻本体:純銅板、内部構造体:ステンレス
※写真は試作品です。
審査経過について
海の見える杜美術館彫刻ビエンナーレ事務局長 田中修二
 今回、3回目を迎えたこの彫刻ビエンナーレで、はじめての大賞作品が誕生しました。優秀賞は該当作品なしとなりましたが、第1回では優秀賞1点、第2回では優秀賞2点と着実に内容が充実していく中で、待ち望んでいた結果がようやく出たことは、審査委員の先生方も含めて私たちにとって本当にうれしいことでした。

 一方で、ビエンナーレの立ち上げから5年以上が過ぎ、これまでの成果や問題点などについて改めて検証し、今後のあり方を考えるべきときに来ていると思います。今回の審査は、このビエンナーレを未来へとつなげていくうえでも示唆の多いものとなりました。
審査風景  審査委員会は委員の1人、田中日佐夫氏が今年5月に逝去されたため、6人の審査委員によって構成されました。ただし当日、山本正道氏は体調不良により欠席され、5人が審査にあたりました。

 はじめにこれまでと同様に、作品がおかれることになる遊歩道を委員全員で歩いてみました。下の入口から入っていき、まず第1回の優秀賞受賞作品である吉田利雄氏作《「間」〜MA》を見たあとで、昨年除幕された第2回ビエンナーレの優秀賞作品2点がおかれた場所へと歩みを進めました。
 
審査風景  2つの作品は約18メートルの間隔をあけて、ほど近いところに建てられています。田中伸季氏作《森の精霊と番犬》は木々が茂って太陽の光を遮る少し暗い場所におかれ、愛らしい顔をした番犬とともにこの杜を見守る精霊の姿をイメージさせます。そこから少しさきの開けたところに建つ児玉士洋氏の《水の大地》は、鏡面加工された表面に周囲の木々の緑を映し出し、天候や季節とともに表情を変化させていきます。いずれも当初の作家の希望とは別のところですが、作家と美術館とが話し合いを重ねて選んだ場所です。

 これらの作品を見学した委員のみなさんの感想は、いずれもマケットでの審査のときに期待した以上の出来映えであるというものでした。また《森の精霊と番犬》については作品のもう少し近くまで歩道を延ばして、子どもたちが気軽に作品に触れられるような空間にしてはどうかといった指摘もありました(このことは近いうちに改善される予定です)。

 このようなかたちで委員のみなさんには、完成後の作品についてもつねに目配りをしていただいていることも、このビエンナーレならではといえるのではないでしょうか。
審査風景  その後美術館に戻って、今回の審査が始まりました。まず応接室で審査の方針と進め方について確認をしたのち、マケットが並べられた第五展示室に行って、一次審査をおこないました。委員のみなさんがマケットを見るのはもちろんこのときが初めてですが、応募書類についてはすでにあらかじめ目を通していただいています。それは作品の安全性や構造面での実現可能性について前もって検討していただき、場合によっては作家の方々に問題点についての回答を審査前にお願いするためです。ですから、委員のみなさんはこの一次審査で、紙の上のイメージが立体的になったときの姿を見るということになります。

 一次審査は30分以上をかけて1つひとつのマケットを吟味し、各自が1〜3位を選び、それぞれに3〜1点の点数を付けました(同一順位で複数を選んでも可)。その後採点結果を集計し、応接室に戻って検討を進めました。一次審査で得票した作品は、新井浩、齊藤茂、青野正、三木勝、森英顕、井上なぎさ、林大作、松本憲宜、安田明長、高木基美子、長田堅二郎、深田充夫、明田和久、朝野浩行の各氏計14名でした。

 このうち齊藤氏の《永遠の塔 ブランクーシへのオマージュ》は高さが18メートルに及ぶもので、事前の実現可能性の検討段階でも構造上の不安が指摘され、作家ご本人から改めてその点の詳しい説明をいただいていたものでした。その試みは委員のみなさんの関心をひくものでしたが、やはり構造上の不安や周囲の景観に与える影響などが議論となりました。またそのオマージュの対象となったブランクーシの《無限柱》が、その柱だけではなく、公園的なアンサンブルの作品であるという指摘が橋氏からありました。

 また長田氏のカーテンが波打つようなアルミ製の作品は、風を感じられる、印象はおもしろいといった評価があった一方で、幅2.3メートル、高さ1.8メートルの大きさが視界を遮断することや、強度の問題について指摘がありました。

 このほか、この遊歩道独自の造形を望むことから、あちこちで見られるような表現の作品についても、ここでは取り上げないことなどが話し合われました。
審査風景  これらの検討の結果、1名の審査委員のみが評価した、得点数が1〜2点のものは除外することとし、新井、齊藤、青野、林、安田、深田、朝野各氏の7名の作品で二次審査を実施しました。二次審査では再び作品のマケットを見ながら、各自が1〜3位の3作品を選び、それぞれに3〜1点を付けました。

 集計後の検討の結果、2点以下の3作品を除外し、新井、林、深田、朝野各氏の4作品がのこりました。除外された3作品のうち安田氏の《silent language》については、細長く湾曲した石を組み合わせた作品で抽象的な造形は興味深いものでしたが、両端のとがった部分がちょうど子供の目の高さにあることの危険性と、石と石とを接合する弾性接着剤の劣化が心配されました。

 のこった4作品はそれぞれ次のようなものでした。新井氏の《蝶が舞う森─環─》は2人の女性が1本の柱のように一体になり、一方の女性の髪の上に1羽の蝶が止まっている作品、林氏の《母音(vowel)》は花崗岩の数箇所に穴を開けたオカリナのようなかたちの作品、深田氏の《海の風・陸の風》は2本の四角い柱が互いに絡み合うようにねじれて建つ作品、そして朝野氏の《杜の時空穴》は下部を円形に処理した石を3つ並べてそれぞれに大きな丸い穴を開け、向こうの景色が見えるようにした作品でした。

 ここで事務局から大賞と優秀賞についての規約を説明したうえで、最終的な選考に入りました。選考ではそれぞれの作品について、それに点を入れた委員から発言していただくことになりました。その中で峯田氏から、朝野氏の作品がその安定感によって逆に周囲の変化が見えてくるような効果を生むであろうという評価があり、大賞としてもよいのではないかと提案がありました。その安定感、あるいは存在感といった特質は、梅本氏らほかの4人の委員の方々も高く評価されました。

 ただし山梨氏からは、作者が実際にこの場所には来ていないと思われ、遊歩道の空間にピタッとくるか疑問が残るという意見も出されました。この点については峯田氏から、実際に作品が完成したときはもっとよくなるはずという期待が示され、藤嶋氏からも同様な意見がありました。橋氏は、4点の中では最もよいが歯がゆさがのこると述べられ、応募書類での展示計画図に添付されたスケッチ(ホームページ上の遊歩道の写真に作品のイメージを合成したもの)からは実際に完成した時の状況がイメージできないという指摘がありました。また作家が指示した場所がすでに吉田氏の作品がおかれている場所であり、変更が必要であるという点は、委員の間で一致しました。

 以上のような議論を経て、朝野氏の作品が一次選考でも最高点を獲得し、かつ二次選考でも全員が点数を付けているという点で、これまで3回の審査の中でも際立った評価を得ていることなどから、最終的に同氏の作品を大賞とすることに決定しました。

 その後、優秀賞について、二次選考で2位につけた新井氏の作品を中心に検討しました。しかし切断された手が女性の身体に組み合わされているその作品が、展覧会では1つの表現としてとらえられるであろうが、公園においたときには環境にそぐわないのではないかといった意見もあり、優秀賞は該当なしとなりました。奨励賞は美術館を訪れた観客の方々の投票で、他の作品を引き離して最高点を取った井上なぎさ氏の《瀬戸の風》をそのまま推すことで決まりました。この作品は銅板を打ち出して女性の姿を立体的に作り出したもので、その表現方法は委員のみなさんにも興味深く映ったようです。
審査風景  審査終了後には、これからのビエンナーレの進め方について委員のみなさんと話し合いました。まず全員の意見が一致したのは、近年、しだいにこうした発表の場が少なくなっている中で、このビエンナーレが若い彫刻家の人たちにとって大切な機会であるという点でした。

 しかし第1回、第2回の審査でも問題になった、このビエンナーレの主旨である「新人彫刻家の発掘、援助をおこなう」という点の難しさは今回の審査でも同様でした。なにをもって「新人」とするか、また恒久的な屋外彫刻を造るということはある程度の経験を積んだ彫刻家でないと容易ではないといった点も、委員のみなさんから指摘がありました。私たちはこれから、恒久的なものに限らない別の展示のあり方や、そのほかの「援助」の仕方も考える必要がありそうです。

 こうした美術館側の課題の一方で、前回の「審査経過について」でも述べたとおり、作品と場所との関係性についての作家側の意識の希薄さという点は、まだ私たちにとって物足りないものであることも、いっておく必要があるように思います。

 たしかに、受かるかどうかわからないものに対して、多額の旅費をかけて現地に行ってみるということは、経済的にも難しいことでしょう。そのため美術館としてもホームページ上で写真を公開するなどして、少しでもこの遊歩道の雰囲気を感じとってもらえるようにしています。しかしそれでも、場所に対するイマジネーションや、空間との格闘といった点で、もっと深みや迫力のある作品が生まれることを期待したいのです。

 今回、はじめて大賞作品が選ばれたことによって、このビエンナーレもついに1つの全体像が見えてきたように思います。これを機会に、私たちはこれをさらによいものにしていこうと考えています。そのためにはなによりもまず彫刻家のみなさんの力が必要です。

 これからもぜひ、力作を創造しつづけ、応募してくださるよう、心から期待しています。
( 大分大学准教授・たなか しゅうじ )
審査委員会
期日: 2009年10月17日(土)
審査員:
<審査委員>
彫刻家
峯田 敏郎     
<審査委員>
前東京藝術大学教授
山本 正道
<審査委員>
美術評論家
藤嶋 俊會
<審査委員>
日本大学芸術学部教授
高橋 幸次
<審査委員>
東京文化財研究所
近・現代視覚芸術研究室長
山梨 絵美子
<審査委員>
当館館長
梅本 道生
※敬称略
以上の6名で構成いたします。
応募総数: 40点
審査方法:

・ 1次審査:各審査員が応募作品の中から、各々1〜3位を選出。(同一順位で複数を選んでも可)
・ 2次審査:1次審査選出作品の中から、各々1〜3位の3作品を選出。
・最終審査:協議の上、各賞を決定。

本コンクールの開催にあたりましては、関係各位より多大なるご支援ご協力をいただきました。あらためて心より感謝申し上げます。
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